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サポート要件_課題を生じる前提要件(第2回)

 少し抽象的な感もありますが、先回言及した仮想事例を示します(この仮想事例は理解のしやすさを重視して単純化しており、また、技術的な正確性・妥当性は考慮していません)。

 例えば、基板表面に樹脂コーティングを施すための樹脂のコーティング方法αとコーティング方法βが公知で、コーティング方法αに特有の問題として、樹脂コーティングの見た目(外観)が悪いということがあったとします。このコーティング方法αの問題を踏まえて甲は検討を重ね、樹脂に添加剤γを配合すると、コーティング方法αにより形成した樹脂コーティングの外観が良化し、その理由として、添加剤γが表面平滑性の向上(表面粗さの抑制)に寄与することが明らかになったとします。また、添加剤γはコーティング過程で揮発して除去されてしまうものとします。この知見を得た甲が特許出願の準備を進めます。明細書には実施例として、添加剤γを樹脂に添加してコーティング方法αで基板を樹脂コーティングすることにより外観が良化したこと、微細なレベルで分析すると表面粗さが抑えられていたことを示す実験結果を載せます。比較例としては、添加剤γを樹脂に添加せずにコーティング方法αで基板を樹脂コーティングすると外観が不良であること、微細なレベルで分析すると表面粗さが大きかったことを示す実験結果を載せます。そのうえで、請求項1には「基板とその上の樹脂コーティングとを有し、樹脂コーティングの表面粗さが・・・以下である、コーティング基板。」という「物」の発明を記載します。従来のコーティング方法α(添加剤γの添加なし)によるコーティング基板を比較例として載せた上で、添加剤γの添加により従来達成できなかった外観の良化を実現し、そのメカニズムが表面平滑性の向上であることを見出し、これを請求項1で特定したとの立て付けです。添加剤γは揮発除去されているので請求項1の「コーティング基板」の発明では添加剤γを特定していない(特定できない)点もポイントです。

 さて、この特許出願に特許権が付与されてしまうと、困りますね。外観不良はコーティング方法αに特有の課題なのに、特許権は文言上、当該課題を生じていないコーティング方法βで形成したコーティング基板にも及んでしまいます。コーティング方法βを実施していた乙はその実施を継続してよいものか、躊躇してしまいます。事業の継続に係る重大事態とも言えます。実際、甲は乙に、甲の特許権を侵害している旨の警告をしてきました。

 では、乙の対抗策はというと、

 特許出願時にコーティング方法βによるコーティング基板(請求項1の規定を満たすコーティング基板)が公知であったとか、特許出願時に当該コーティング基板が市場に流通していたとか、証拠を集めて特許権にかかる発明の新規性欠如を主張したり、先使用の抗弁を主張したりすることを検討するでしょう。しかし、客観的な証拠を集めるのは意外と大変です。

 乙の対抗策としてもう一つの視点は、コーティング方法αによる特有の課題を解決した発明の特許であるのに、請求項1がコーティング方法βによるコーティング基板も含んでおり、請求項1の範囲が広すぎる、との主張です。請求項1の「範囲が広すぎる」と言えば、典型的なサポート要件違反と言えそうです。おそらく上記の「出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない」で処理することになりそう、ということがおよそ認識できます。ですが、この類型に係る上記具体例を参照すると、上述の通り、いずれも課題を生じるか否かの観点がなく課題が生じることが前提にあり、そのうえで、解決手段が請求項で十分に特定されていないとしてサポート要件違反を導いているように思われます。そうすると、本件の請求項1にうまく当てはまりません。本件の請求項1では、外観良化を達成する解決手段である「樹脂コーティングの表面粗さが、・・・以下である」が特定されているからです。

(第3回に続く)